中性子捕捉療法とは
ホウ素中性子捕捉療法:BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)とは
10B(ホウ素)+n(中性子) →7Li(リチウム)+α(α線:ヘリウム原子核)+ 2.79MeV(エネルギー)
→7Li+α+γ(ガンマ線:光子)+ 2.31MeV
→7Li+α+γ(ガンマ線:光子)+ 2.31MeV
の反応によって出てくるα線(ヘリウム原子核)とLi原子核をガン細胞に当て、破壊することを目的とした治療方法です。ホウ素は点滴等によって血液を介して腫瘍部に送り込み、中性子は原子炉の炉心から取り出した物を利用します。
細胞組織内でのα線等の飛程は約10-5[m](10μm)程度しかなく、これは人間の細胞の径にほぼ等しくなります。
よって、ホウ素が腫瘍細胞に集積していれば、上記の反応によってα線は丁度腫瘍細胞を叩き、破壊する事ができます。これがBNCTの原理です。
従って、”悪性腫瘍細胞に取り込まれ、正常細胞には取り込まれない”好都合なホウ素化合物が必要になりますが、脳腫瘍の場合、正常脳は「血液脳関門現象(Blood Brain Barrier)」によって保護されているため、この作用によって異物質であるホウ素化合物は腫瘍細胞にのみ取り込まれます。これによってBNCTの脳腫瘍適用が可能になります。
なお、利用する中性子は”熱中性子”という核分裂によって発生した中性子を1/1,000,000(百万分の1)程度のエネルギーまで減速した低エネルギーの中性子です。そのため正常細胞には殆ど影響を与えません。さらに都合の良いことに、ホウ素は熱中性子を好んで取り込む性質を持っています。
ちなみに核分裂後の中性子は非常に高速であるため(エネルギーが高いから)、生体中の水分子中の水素原子核(陽子)をはじき飛ばしてしまい、その反跳陽子が細胞を傷つけます。そのため正常細胞も無差別に損傷を受けます。ですので治療には減速させた熱中性子を利用します。
中性子捕捉療法の主な歴史
1936年 | アメリカの物理学者 Locher が原理的な予言をした |
1951~ 1961年 |
ハーバート大学Sweet教授の指導で、BNL(ブルックヘブン国立研究所)で19例、MIT(マサチューセッツ工科大学)で17例合計36例の治療が行われた |
1968~ 1974年 |
東大 佐野教授、帝京大 畠中教授のグループが、日立炉(100kW)を使って13例の治療を実施した |
1977~ 1989年 |
帝京大 畠中教授のグループが、本学原子力研究所のTRIGA型原子炉(100kW)を用いて、悪性腫瘍の治療99例を実施した |
1987~ 1989年 |
神戸大 三嶋教授のグループが、皮膚腫瘍(悪性黒色腫:メラノーマ)の治療を本学原子炉を用いて実施した |
1989年 | 武蔵工大炉の冷却水漏洩により、医療照射が中断 (武蔵工大炉での照射再開は未定) |
1990年 | 武蔵工大炉の停止を受けて、京都大学原子炉実験所及び日本原子力研究所の研究炉を利用した中性子捕捉療法を開始 |
1996年 | 日本原子力研究所 JRR-2研究炉廃炉のため停止 |
1999年~ | 日本原子力研究所 JRR-4研究炉で医療照射を再開 |
世界における現在のBNCT施設
原子炉 | 施設名 | 国名 |
---|---|---|
JRR 4 | 日本原子力研究所(東海研究所) | 日本 |
KUR | 京都大学 原子炉実験所 | 日本 |
BMRR | ブルックヘブン国立研究所 | 米国 |
MIT-R | マサチューセッツ工科大学 | 米国 |
HFR | ヨーロッパ研究センター(ペテン) | オランダ |
FiR | フィンランド研究センター | フィンランド |