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他の放射線療法との相違

従来の放射線療法と中性子捕捉療法の相違

脳腫瘍においては、その腫瘍の悪性度によっては放射線療法が必要となる。
この放射線療法とは、放射線によって腫瘍細胞の増殖システムに対し、放射線の電離作用で細胞分裂による増殖を阻止して腫瘍細胞を消滅させようとするもので、正常組織細胞にも影響を与えるが、その感受性の違いから(腫瘍細胞の方が放射線感受性が高い)組織そのものの機能をおおむね保持することができる。
しかし、放射線療法のみでは治療効果が乏しいため、化学療法や免疫療法の併用による治療が一般的である。

脳腫瘍に対する放射線治療の装置には様々なものがあり、リニアックやガンマナイフ、粒子線加速器などがあるが、現在悪性脳腫瘍に対する最も一般的な放射線治療法は、X線の2門直交照射による方法である。
脳腫瘍の中でも特にグリオーマ(神経膠腫)等の正常な脳組織内に浸潤する悪性脳腫瘍に対しても放射線治療が有効ではあるが、悪性グリオーマ(Grade3ないし4)に対しては残念ながら十分な効果が上がっているとはいえない。
そこで、高い生物学的効果比を持つ放射線を利用し、効果的な治療を目指した放射線治療が近年注目されている。
その中でも有効な放射線治療法が中性子捕捉療法である。

主な相違点

項目 従来の放射線療法 中性子捕捉療法
使用する
放射線
X線, γ線等の電磁波 原子炉から取り出した中性子、及び腫瘍細胞中のホウ素が中性子吸収後に壊変し、その際ホウ素から分裂したヘリウム原子核(α線)とリチウム原子核を用いる。粒子線治療の一種である。
照射期間 1日あたり1~2Gy(J/kg)を週5日の割合で6週から8週にかけて行う 1回のみ
照射方法 非開頭で2門直交照射 現時点では照射当日に開頭手術が必要。
(非開頭照射治療の研究が現在行われている)
原子炉隣の手術室で開頭後、原子炉から中性子を導き出す照射孔に患部を固定し照射。全身麻酔管理下で行う。
照射範囲
2方向からの照射であり、交差する範囲の線量が2倍になる。正常細胞へ与える影響は大

腫瘍細胞中に取り込まれたホウ素化合物と熱中性子(低エネルギーで生体に与える影響が小さい)の反応により腫瘍細胞のみを細胞レベルで選択的に破壊することが可能、かつ腫瘍周囲に存在する正常の脳神経細胞等をほとんど傷つけることなく治療が可能である
副作用 正常脳の耐用線量を目安にできるだけ照射するため、どうしても色々な障害が生じる可能性が有る。 正常脳の耐用線量を目安にできるだけ照射し、さらに1回のみの照射で終わらせるため、一過性の脳浮腫(脳の腫れ)や晩発性障害の可能性がある
設備 放射線照射装置が必要
(癌治療を行っている病院ならば大抵設置されている)
医療照射用に使用できる原子炉が必要
※現在稼働中で利用できるのは、京大原子炉実験所(大阪府熊取町)と日本原研・東海研究所(茨城県那珂郡東海村)の研究用原子炉のみ (武蔵工大炉での照射再開は未定)
QOL
(日常生活の質)
個人差による
照射期間中にも腫瘍の増大が見られる症例が結構有る
個人差によるが、傾向としては良い
奏効率(効き具合)の点でも従来の放射線療法よりも勝る傾向がある